はる

中野の住宅街の奥に、古い団地がある。

昼間は子どもたちの声が響く普通の場所なのに、夜になると妙に静かで、風の音さえ遠く感じられる。

その団地の裏手には、誰も使わなくなった小さな公園があった。

錆びた鉄棒、色の抜けた滑り台、そして、ひとつだけ残されたブランコ。

夏の夜、そこだけ時間が止まったように暗い。

ある夜、高校生の三人が肝試しにその公園へ向かった。

「ここ、昔は事故があったんだって」

「ブランコに乗ってた子が、いきなり消えたらしいよ」

そんな噂話をしながら、懐中電灯を頼りに進む。

公園に着くと、風が止んだ。

セミの声も、遠くの車の音も、全部消えた。

「……なんか、静かすぎない?」

誰かがそう言った瞬間、ブランコがきぃ、と揺れた。

誰も触れていない。

風も吹いていない。

なのに、ゆっくり、ゆっくりと揺れている。

「帰ろう」

ひとりが言ったが、もう遅かった。

ブランコの影が、地面に二つ映っていた。

座っているのはひとりだけなのに、影は二つ。

しかも、もうひとつの影は――こちらを向いていた。

懐中電灯の光が震え、三人は走り出した。

背後で、きぃ、きぃ、とブランコの音が追いかけてくる。

まるで誰かが勢いよく漕ぎ始めたみたいに。

団地の角を曲がった瞬間、音はぴたりと止んだ。

振り返ると、公園は真っ暗で、何も見えない。

ただ、翌朝。

団地の掲示板に貼られた紙を見て、三人は凍りついた。

「昨夜、公園で遊んでいた子どもが行方不明になりました。

心当たりのある方はご連絡ください。」

その紙の端には、黒いクレヨンで描かれた絵があった。

ブランコに座る子どもと、その隣で揺れる“もうひとつの影”。




ジェミニさんによる夏のホラーよりの作り話

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